自ら決めるアウトプット

 現在の子ども達は、実にいろいろなことを知っています。ITの発達により私たちが子供のころとは比べ物にならないくらい、容易に情報を手にすることができるようになりました。知識とは道具のようなもので、使って初めて生きるものです。持っているだけでは何にもなりません。現在の子供たちはたくさんのことを知っていてもその知識を行動に活かす経験が不足しているように思います。
 また、学力テストには「正しい答え」がありますが、現実の問題には「正しい答え」はありません。自分が「決めた」ことが、「答え」になるだけです。「正しい」のかどうかさえ自分で判断するしかありません。納得のいく答えを導き出すためには知識を道具として使いこなす力が必要なのです。

 私たちはジュニエコで、子供たちに正解のない問題に取り組む機会を作ってあげたいと考えています。
 そのため、カリキュラムはインプットではなく、アウトプットを重視しています。知らないことを教えるというより、持っているものを引き出すイメージです。小学生の知識だけで商売ができるわけはないと考えれば、必要以上に教えてしまうでしょう。しかしそれでは、大人達の用意した答えを見つける体験になってしまいます。

 子供たちは小学校5、6年生なりの力をすでに持っています。家庭での躾、学校での学習、話を聞く力、意見を伝える力。私たちはそれらの知識や能力を「自分力」と呼んでいます。ジュニエコは今まで蓄えてきた「自分力」を発揮する場であると考えています。
 自分力を駆使して取り組むカリキュラムは、「決める」ことの連続です。自分たちで決めていかなければ先に進むことができません。
例えば、会社を設立する際には、会社名のほか、キャッチコピーや5名の役職などを決めます。キャッチコピーを考えるのは、ビジョンを言葉にする作業です。「お客様に喜んでもらう」、「売上一番!」、「チームワーク良く完売を目指す」など、どれも子ども達が考え、決めたわが社の目指すべき姿です。
 また、5名の役職のうち、社長と財務部長、商品部長の3つの役職名はルールとして与えられていますが、他2つは役職名がありません。応援部長、広報部長、副社長など、ここでも子供たちは自由に考え、自分たちで決めていきます。
さらに販売に向けて、子供たちは様々なアウトプットをしていきます。商品や販売の計画をする際には自分の意見を押し通すだけでなく、仲間の意見も聞き入れなければなりません。どうしたら会社がうまくいくのか悩み、考えます。中にはケンカをして泣き出す子もいます。子供たちの目は真剣です。
 計画、販売、振り返りと過程が進む中で、問題に直面するたび、子供たちは自分で決める大変さと楽しさを実感します。ルールに違反すること以外は、自由に考え、自分たちで決めていい。ただし、自分が決めたことだから、責任は持たなければならない。ジュニエコのリアリティはここにあります。

教えないプログラム

 ジュニエコでは必要最小限のことしか教えません。「決める」ために、今の子供たちが持っている知識では足りないと思われる部分についてのみ教えます。
たとえば、ガイドブックの冒頭には株式、資本金、借入金など、子供たちに馴染みのない言葉がたくさん出てきますが、株式会社を設立するにあたって、これらの知識は必要不可欠です。ですから、これらの知識については教えます。特に借入のメリットとリスクについては丁寧に教えます。
 借入をして元手が多くなれば、大きな商売ができる。けれども、借入をすれば利息を払わなければならないし、必ず返さなければならない。赤字になった場合は自分たちのお小遣いで穴埋めしなければならない。教えるのはここまでです。その知識を得て、借入するのかしないのか、「決める」のは子供たちです。
 答えを教えない。言い換えれば大人が決めない、ということです。
 同じ説明を聞いても子供たちの反応は様々です。「利息を払ってでも大きな商売をしたい」と考える会社もあれば、借入をしない会社もあります。借入をしない理由は「利息がもったいないから」とか「赤字になったとき困るから」という危険回避もあれば、ただ単に「借金は悪いことだから」という観念的なものもあります。
 いずれにしても借入をするのが正解なのか、しないのが正解なのかはわかりません。ただ一つ言えることは子供たちが「決めた」こと、それが「答え」だということです。ですから、私たちは彼らの出した答えを尊重します。「良い」「悪い」の評価をしません。彼らが決めた答えを認めてあげるだけです。

地元の大人が子どもを育てる

 ジュニエコは全国17か所で開催されていますが、運営しているのは、その町で商工業を営む地元の大人たちです。教育のプロではないので知識伝達においては素人ですが、商売にかけてはプロフェッショナルです。その商売のプロが運営する商売体験ですから、これは本物です。そもそも、ジュニエコは単なる知識の伝達ではありません。その町に住む大人たちの思いが、子供たちに伝わってこそ、意味があるのだと思っています。大人の一生懸命な姿を見て、子供たちは何かを感じるはずです。
 子供たちが主役のジュニエコですが、関わる大人にも役割があります。端的にいえば、子供は「決める」役、大人はそのための環境を整える役ということになります。ともすると保護者の方々は子供と一緒に参加する側ととらえてしまいがちですが、私たちは、子供を一緒に育てていく地域の大人として、同じ立ち位置にいてもらうようにお願いしています。

 具体的には、保護者はサポーターという立場で子供たちを応援します。サポーターの仕事は文字通り子供を支えることです。会場や仕入れ先までの送り迎えや、調理器具の適正使用など子供たちだけではできないこと、危険が伴うことなどに手を貸します。
 最終的に「決める」のは子供ですが、考えをまとめるために相談を受けるのもサポーターの仕事です。家庭での会話はとても重要です。ジュニエコがきっかけで父さんお母さんがどんな仕事をしているのか、よくわかったという子供がいました。困っていることを相談したところ、父親が自分の会社の事例を出してアドバイスしてくれたそうです。お父さん、お母さんの苦労話や仕事についての考え方を知ることで、子供たちは経済や社会を身近に感じるようになります。
 大人の役割は子供が「決める」ための環境を整備することだと述べました。環境整備とは、大きなルールや体験の場を作っていくことです。子供たちがのびのびと「自分力」を発揮できる環境、様々な条件を踏まえて「決める」体験をする場、それをつくるのが、我々大人の役割です。